慢性的な採用難が続く中、求人媒体やエージェントでは会えない層に会いたい。フォーム営業やテレアポが効かなくなってきた。アルムナス株式会社に来る相談は、採用と営業のどちらも「今のチャネルでは接点がつくれない」という形をしている。2026年10月7日、代表取締役CEOの名智伸明さんにオンラインで話を聞いた。
お話を聞いた人
名智 伸明アルムナス株式会社 代表取締役CEO
NEC、エクサウィザーズ、ユーザベースを経て、2024年3月にアルムナス株式会社を創業。BtoB営業の経験が長く、退職者(アルムナイ)コミュニティの支援から始めて、現在は採用・営業・専門家ネットワークのコミュニティ構築を手がける。
アルムナス株式会社とは(事業内容)
アルムナス株式会社の事業は、企業の採用や営業につながるコミュニティの構築・運営支援だ。コミュニティを設計し、参加者を集め、イベントとコンテンツで運営するところまでを担う。お客さんの状況に合わせてコンテンツやイベントを展開することが特徴だ。
01企業の「関係人口」をつくる、4つの依頼の形
アルムナス株式会社は、代表取締役CEOの名智伸明さんが2024年に創業した。事業を一言でいうと、企業やサービスの「関係人口」をつくることだ。名智さんのいう関係人口は、採用候補者、顧客や協業先の候補、外部の専門家、退職者など、今すぐの取引はなくても連絡が取れる関係にある人たちのこと。もとは、移住した定住人口でも観光に来た交流人口でもなく、地域と多様に関わる人を指す地方創生の言葉だが、名智さんはこれを企業に当てはめて使っている。依頼の形は4つに分かれる。
- 採用候補者
- 顧客や協業先の候補。BtoCでいうファンコミュニティにあたる
- 案件が増えたときに頼める外部の専門家
- 退職者(アルムナイ)
どれも「人が集まる場を設計し、集客し、運営する」という同じ工程でできていて、運営した先で、企業が関係人口とつながる。それを目的にしたコミュニティ支援が、アルムナスの事業だ。
02退職者のコミュニティから始まり、自社プロダクトは持たない
創業時のテーマは、会社を辞めた人たち(アルムナイ)のコミュニティだった。辞めた人と会社がどう関係を続けるか、という難しい領域から始めたことが、今の採用や営業のコミュニティ支援にも生きている。主催したイベントの記録はnoteで公開しており、イベントレポートは10本ある(2026年10月6日時点)。
アルムナスが自社プロダクトを持たないのは意図したものだ。「AI時代に起業したから、SaaSの時代ではないと思った」と名智さんは言う。ツールは既存のものを使い、その上で人が集まり続ける部分、つまり設計・集客・運営に手を動かして入る。
03「ハウスリストは生きていない」。なぜコミュニティなのか
アルムナスがコミュニティに価値を置くのは、ハウスリストやフォロワーと違って、相手の側にアクションとコミットメントがあるからだ。連絡が取れる関係、つまり関係人口が、将来の採用と営業の接点になる。
名智さんの定義はこうだ。「ユーザーが何かの境目を超えて入ってくることがコミュニティ」。向こう側にアクションとコミットメントがある、という点が他の手段と違う。
どこかで手に入れたメールアドレスに一方的に送るだけでは、相手のコミットメントがない。ベースとしては使うが、コミュニティのほうが熱量の高い人が集まり、将来の売り手にも買い手にもなる。
BtoBでもYouTubeやSpotifyを始める会社が増えているが、フォロワーは一方的で、こちらから連絡が取れない。コミュニティはメールアドレスの登録やニュースレターの購読があるので、連絡の手段がある。「YouTubeで1万人にフォローされているより、1,000人のコミュニティのほうがBtoBとしては熱い」と名智さんは言う。
背景には、BtoB営業の変化がある。フォーム営業はAIで自動化され、テレアポもインサイドセールスもAIで掛けられ、受ける側もAIになる。「今までのBtoB営業のファネルが壊れてきている」。だからこれからは、コミュニティマーケティング、コミュニティセリングが上がってくる、というのが名智さんの見立てだ。
この考え方で支援した会社の記録は 支援事例1 に。
04「個人の貢献に、辞めてからもお返ししたい」。会社の成長は辞めた人も担っている
もう一つ、名智さんがアルムナイを通じて実現したいことがある。会社の成長は、辞めた人も担っている。上場したときにはもういなくても、その人の頑張りがなければ成長することは難しかったという局面は多い。転職しても、過去に築いた信頼が続いてほしい。「個人の貢献に、辞めてからもお返ししたい。そういう装置になるといい」。
法人から頼まれるコミュニティも、結局は個人の集まりだ。個人が嬉しいことを積み重ねることが、法人の成果につながるというのが名智さんの考えだ。
この考え方で支援した会社の記録は 支援事例2 に。
アルムナス株式会社の特徴・強み
アルムナス株式会社は、参加したくなる場を先につくり、求人媒体や営業リストでは会えない人との接点を続ける、企業の「関係人口」をつくるコミュニティ支援の会社。強みは、参加したくなる場を先につくること、求人媒体や営業リストでは会えない人の集客を引き受けること、参加者の属性でコンテンツを変えること、その会社らしいコミュニティに名前を付けること、目的から設計して自走できるまで支えることの5つだ。
01参加したくなる場を先につくる。だから接点が続き、採用や取引の機会を逃さない
アルムナスは、会社の目的より先に、参加して嬉しいと思える場をつくる。接点が続く場になった結果として、採用や出戻りの機会が生まれる順番だ。
企業の人事や広報が自社でコミュニティを運営しているケースは珍しくない。ただ、自社や自分のグループでイベントやコミュニティをつくっても「意外と集まらない」と、名智さんは大手グループの人事から聞いている。年に1回、豪華なパーティーを開いても、それだけでは次につながりにくい。
アルムナスは逆の順番でつくる。まず、参加したくなる場をつくる。たとえば同じグループ出身の起業家だけを集める。活発になった結果として、会社とのつながりが生まれる。実際、自主開催した起業家向けの出身者イベントは、人事から歓迎され、連携するようになった。
そうする理由を、名智さんは退職者の例で説明する。名智さんによると、辞めた人が次の会社をまた辞めるタイミングは、辞めてから3〜5年後に来ることが多い。そのときに元の会社と接点があれば戻ってくる。年1回のパーティーでは、接点がそのタイミングと重ならない。接点の多い場ほど、候補者の転機と重なりやすい。
もう一つ、名智さんが「凪が怖い」と呼ぶ考え方がある。相手の感情は、プラスマイナスゼロよりマイナス10のほうがいい。嫌いな上司がいなくなった、環境が変わった、と知ったときにマイナスはプラスに転じるからだ。何も感じていない状態が一番遠い。これが、接点を増やし続ける理由だ。
02求人媒体や営業リストでは会えない人が集まる場を、集客から引き受けてつくる
アルムナスは、イベントの集客を含めて自分たちで担う。過去の在籍企業を手がかりに一人ずつ声をかけ、回を重ねて参加者の名簿を育てる。
コミュニティ支援には、コミュニティマネージャーを派遣する会社や、コミュニティのプラットフォームを提供する会社がある。ただ、イベントで一番骨が折れるのは集客だ。「集客が一番大事で、誰もやりたがらない」と名智さんは言う。
アルムナスは、そこを自分たちで引き受ける。最初は「めちゃめちゃ地上戦」で、LinkedInで1対1のメッセージを送り続けた。LinkedInは過去の在籍企業で検索できるので、特定の会社の出身者にピンポイントで届く。特定の会社の出身者を集めるときに相性がいいという。
回数を重ねた今は、PeatixやLumaに一度参加した人が蓄積されていて、イベントを出せばそこに届く。「エコシステムになると楽になる部分が絶対ある。最初が大変」というのが名智さんの実感だ。
アルムナイでは特に、立ち上げても人が集まらないことが多い。だからこそ、集客が鍵になる。ただし、がむしゃらに周知するわけではなく、退職者が集まりやすい企画設計を行い、そもそもの土台を立てる。何が集まる企画かという集客ナレッジを持っていることが、名智さんの強みだ。
人数が読めない初回でも開く。少人数の回は参加者同士の距離が近く、一人ひとりと深く話せる場になる。人数が少ないことを前提にコンテンツを設計することで、満足度の高いイベントになる。
2026年9月に開いたイベント。
約30人が集まった(写真提供:アルムナス株式会社)。
03「参加者が嬉しくないコミュニティは続かない」。参加者の属性でコンテンツを変える
アルムナスは、同じ「コミュニティイベント」でも、来る人によって中身を変える。参加者にとっての報酬が違うからだ。
起業家を集める回では、参加者一人ひとりが前に出て話すライトニングトークを置く。起業家にとって、自分のやっていることを知ってもらい次の仕事につなげることが「報酬」になるからだ。
一方、キャリアに悩むコンサルタントが来る回では、参加者に前で話してもらう設計にはしない。会社員である参加者には、起業家と違って自分の実績を外に出すメリットがほとんどなく、登壇が報酬にならないからだ。この回では、キャリアで突き抜けた人を呼んで話を聞き、最後に話したい人と話せる交流の時間を置く。
「参加者が嬉しくないコミュニティは続かない」。搾取する構造にしないために、一人ひとりのニーズとコンテンツを照らし合わせることを、名智さんは一番大事にしている。
04コミュニティブランディング。その会社らしいコミュニティを言葉にし、名前を付ける
アルムナスは、依頼主の会社を観察して「その会社らしいコミュニティとは何か」を言葉にし、名前まで付ける。コミュニティに名前が付くと、次にどんなイベントを開き、どんな人を集めるかが決まる。マーケティングでいう最上位の設定にあたる部分で、依頼主の会社がここを言葉にできていないことが多い。
名智さんが依頼主から一番よく聞かれる質問は「うちらしいコミュニティって何ですかね」だという。イベントの運営に入る中で会社を観察し、「御社のコミュニティにはこういう特徴があるので、こういうテーマ、こういう名前はどうか」と伝えるのがアルムナスの仕事になる。
コミュニティは、会社のパーパスやMVV、業界、ビジネスモデルによって形が変わる。名智さんは「よく観察してみると、それっぽく見えてくる」と言い、見えたものを依頼主に伝える。「ネーミングを考えるのは結構好き」とのことだ。
たとえばBtoCの会社なら、辞めた人がそのまま顧客になる可能性が高い。だから「ファンでいてもらうためのコミュニティ」になる、という具合だ。
もう一つ多いのが「他社からどう見えるか」という質問だ。競合がこういうコミュニティをやっているが、うちがやるならどうか。いろいろなコミュニティを見ているアルムナスは、比較して客観的に答えられる立ち位置にいる。
05アルムナイ採用の結果にとらわれない。目的から設計し、自走できるまで支えて手離れする
アルムナスは、アルムナイを出戻り採用の数で測らない。経営課題や組織の目的を先に置き、そこから企画立案と実行までを担う。お客さんが自分たちで運営できるようになったら手離れする。
アルムナイは、出戻り採用を目的に始められることが多い。アルムナスは出戻りの数にとらわれず、会社としての目的を置く。定年前のシニア人材のキャリア課題なら、キャリア支援と掛け合わせて前向きな卒業を促す場にする、という具合だ。目的が決まれば、コミュニティの活動内容もそれに沿って見定め、変えていく。
支援は中長期で、半年から1年、1年以上続く案件もある。イベントは四半期か半年に1回。コミュニケーションツールは問わず、お客さんに合うものを使う。
到達点は、お客さんが自分たちで運営できる状態になることだ。「ずっとこっちに依存して何か、というわけではなくて、あくまで内製化を見据えてやれる」と名智さんは言う。立ち上げた仕組みが自走し、アルムナスがいなくなった後も、会社が退職者とコミュニケーションを取れる状態が残る。
この考え方で支援した会社の記録は 支援事例2 に。